私たちの住むムンバイ

スパイス天国 カレーの世界

 「インド人は、カレーを毎日食べるのですか。」という質問をたくさんいただきました。答えは、「はい、毎日カレーを食べています。」なのですが、このカレーは、日本のカレーとは、全く違います。そして、日本の皆さんが、食べているビーフカレーライスや、ポークカレーライスは、インドにはありません。人参、玉ねぎ、ジャガイモに、お肉のとろっとしたカレーもインドにはありません。そして、驚いたことに、レストランのメニューには、カレーがありません…???。

 インド料理の基本は、スパイスのブレンド。ちょっとインドに詳しい人は、いくつものスパイスを使ってカレーを作る様に思いがちですが、日常に使っているのはニンニク(旨みのもと)、ショウガ(さわやかな辛み)、ターメリック(カレーを黄色くする、材料や、他のスパイスの結合を促す。日本名は、ウコン)、トウガラシ(辛みの主役)、黒コショウ(ピリリとした刺激)、クミン(カレーのむせ返るような香り)、コリアンダー(とろみのもと)とせいぜい6〜7種類くらいのものです。

 インド本来の肉(鶏や魚)
や、野菜は味が濃厚なので料理上手な奥さんほど、スパイスは控えめです。事実レストランと違って、家庭に呼ばれていただいた家庭料理のカレーは、実に素材の味が良く出て毎日いただいても良いくらいおいしいです。最初ボンベイに着いたばかりのころは、とっても美味しい高級なレストラン行って食べていましたが、美味しいけれど毎日このカレーではつらいなと思っていました。ですが実際の家庭の味は実にマイルドです。

 作り方も日本のカレーとは、全く違います。まず、先ほどの基本のスパイスを、石臼で、少しの水と、塩を加えて、すりつぶします。(最近は、電動式のグラインダーで挽きます。)これが、マサーラと呼ばれるペーストです。各家でそれぞれ配合の分量は違います。そしてこのペーストを中華鍋のような鍋で、よーく油いためします。ここが重要で、この炒め方がカレーの美味しさを決めるポイントです。肉や、魚を入れるときは、さらに玉ねぎのみじん切りを加えて、これまたよーく炒めます。そして、具になる肉や魚、野菜を加えて炒めます。野菜は、何種類か一緒に入れることもありますが、基本的には、カリフラワーだけ、オクラだけ、鶏肉だけという単品です。そして、その素材に応じて、また地方によって、水、スープ、ヨーグルト、ココナッツミルク、酢(タマリンドの酸味を効かせる事もある)などの水分を加えて煮こみます。煮こみ方も日本のカレーのように何時間もということはなく、日常は10分くらいでOK。スパイスと玉ねぎが十分炒めてあるので大変こくがあるカレーが出来あがります。

時間をかけて、煮こむ鶏やマトンのカレーは、圧力釜で料理します。中流以上の家庭には、圧力鍋があってステイタスシンボルです。(テレビドラマや、映画の中で、圧力鍋のピーっという音に、我に返ったり、ラブシーンが、中断したりと、現在の生活効果音の演出になくてはならない小道具です。)そして最後にガラム・マサーラが加えられます。マサーラがペースト状になっているのに対して、ガラム・マサーラは粉末状。カルダモン、シナモン、クローブなどの、インドでも高価な甘い香りのスパイスを、鍋を火から下ろす直前にパッといれます。このガラム・マサーラは、日本のカレー粉によくにています。

 それもそのはず、日本のカレー粉はガラム・マサーラがルーツです。これもインド料理の秘密兵器、各家庭によって配合が違いますが、近頃は、ミックスしたガラム・マサーラが、箱入りで販売されていています。テレビのコマーシャルでは、白黒のまずそうなカレーを食べる団欒風景が、エベレスト(カレー粉のブランド)のガラム・マサーラを一振りすると一転、場面がカラーになって、ママもにっこり、家族もにっこりというのがあります。
 
 日本では、小麦粉でとろみをつける(ハウスバーモンドカレーの箱には、材料に、小麦粉の表示があります。)このとろみのあるカレーが、カレーと思われていますが、インドでは玉ねぎを炒めたり、ダールと呼ばれるひよこ豆のピューレ、ココナッツミルクでとろっとした感じを出します。北インドの、ムガール帝国料理(マハラジャ料理)では、中近東からの影響で、カシューナッツのペーストや、ヨーグルトでとろみを出します。日本のカレーは、実はイギリス人がシチュー料理として持ちかえったカレーが伝わったそうです。
(日本のカレーのルーツについて、詳しく知りたい方は、福音館書店・たくさんのふしぎシリーズのカレーを見てください。)

 とろりとしたカレーは、日常ではあまり食べてなくて、カレー味のついた野菜の煮こみや、カレー味の豆のスープのようなものが多いです。インドの主菜のカレー料理は実はこんなふうに作られているわけです。そしてさらに、ダールと呼ばれるひよこ豆のカレー味スープ、ヨーグルト、生野菜、そして、チャパティーを主食に右手の指で食べます。インド人は、左手は不浄の手なので、食事中は、必ずひざの上に載せて、余程の事がない限りテーブルの上には出しません。

 男性は、5本指全部を使いますが、お行儀の良い女性は、親指、人差し指、中指の第2間接までしか汚さずに上手に口にはこびます。日本人の私たちは、チャパティー(インドのクレープのようなパン)を右手の指だけではとてもちぎれませんが、インド人は、器用に、チャパティーを片手でちぎり、汁の多いカレーを上手にすくうので、驚きます。私はいつも肘までカレールーが流れてしまって大変です。

 ご飯は、全インドで食べられていますが、ボンベイのあるマハラシュートラは主食がご飯よりもチャパティーです。南インドのタミルなどではご飯が主食ですが、同じ南インドでもケララやカルカッタなどでは、チャパティーが多く食べられています。また、北インドの、ムガール料理(マハラジャ料理)では、タンドールを使って焼いたナン(日本でもおなじみですね。インドでは、ごく一部の地域でしか食べません。)が主食になります。

材料、スパイス、地方によって様々な種類があって、一口にカレーといってもすごい種類です。さらに、ベジタリアン、ノンベジタリアン料理、宗教の違いによる料理の決まりもあってインドのカレーといっても、一口には、言い表せないものがあります。全部カレー味だけれども、カレーではない。一体カレーの定義は、何なのか、私も書いているうちに怪しくなってきました。更なる味の探求に努めたいと、飽くなき食欲で、邁進中です。そのうち、日本の材料で出来る、美味しいインド料理のレシピが紹介できるようになりたいと思っています。

ちなみに、カレーは「辛えー!」が語源です。信じてもらえないでしょうが。タミル語で「HOT」をkariといいます。これが語源といわれていて、kari(辛い)→Curry(英語)→カレー(日本語)と伝わったそうです。(日本語とタミル語・言語学者大野晋博士/新潮社)そして、インドの料理そのものが、カレーなので、メニューには、カレーという言葉がありません。


ついでにカルピスもインドの味

 カルピスの昔の王冠を覚えていますか。(昭和30年以前の生まれの方ですけど。)三つ編みのインド人の女の子(そのころは、くろんぼちゃんとかいう、差別的な呼び方なので、いまはなくなりましたが。)が、シンボルで、この王冠をためて懸賞応募なんて言うのがありましたよね。カルピスのネーミングは、インドの究極の乳製品、<醍醐>サルピスにあやかったものだそうです。元気のもとカルシウムこれを取るために、牛乳が一番、ちょっと甘い発酵乳、カルシウムとサルピスでカルピスです。

 インドには、カルピスに似た飲むヨーグルト、ラッシーというのがあって子供から大人まで、各家庭でヨーグルトに牛乳、砂糖を加えて撹拌した飲み物があります。そして、醍醐ことサルピスとは、乳を精製して得られる最も美味なる5つのもの、仏教の最高真理にたとえられます。この5つの味とは、@牛乳、牛乳を煮詰めたA酪(ストラ)、さらに煮詰めたクリーム状のB生酥(クルチャー)、さらに煮詰めたクリームチーズ状のC熟酥(クルチカー・ビクトリー)そして、さらに火にかけて、出来た乳脂肪をD醍醐(サルピス)といいます。
 インド人は、神様である牛の乳、牛乳を様々な加工法で、食品化していて、ギー(バター)ヨーグルト、カッテージチーズ(お豆腐)、お菓子、アイスクリーム、そして、紅茶と一緒にチャイとして良くのみます。肉をあまり食べないので、大切な蛋白源です。

 我が家の飲んでいるパーシー・デイリーのミルクは、水牛のミルクです。日本のように、低温殺菌なんていう基準がないので、配達後、直ちに、鍋でにて冷まして、漉して冷蔵庫にしまいます。1月に3回くらい、腐っているときがあり、沸かすと分離するのでよく分かります。水にくず茶の紅茶をいれて、ぐらぐら沸かし、同量の牛乳、たっぷりの砂糖を加え、砕いたカルダモン、クローブ、黒コショウ、ショウガ、シナモン、カリパタ(カレーリーフ、蜜柑山椒)などを、好みでブレンドして加えた、インドの紅茶・チャイは、暑い国での重要な栄養源です。(牛乳ではないけれど、冷たいレモネード「ニンブー・パーニー」も良く飲まれるインドの飲み物です。)インド料理には、これらの乳製品が良く合います。辛すぎて、味覚が麻痺しそうになったとき、ご飯とカレーの山に、ヨーグルトを混ぜてマイルドにして、手でこねて、口へ運べるようになったら、あなたもインドカレー通です。
ああーよだれがでそうです。



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